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キャン便り Vol.1 北海道大学電子科学研究所ニコンイメージングセンター

Blog 2013年9月8日

北海道大学の北キャンパスには、あまり知られていない最新の機器や、外部の方も利用ができる先端機器があります。第1回『北キャン便り』では、「北海道大学電子科学研究所・ニコンイメージングセンター」(http://nic.es.hokudai.ac.jp/)をご紹介します。

顕微鏡がこれだけの規模で揃っている所はない

旧ニコンバイオイメージングセンターは、2005年に日本全国の研究者のための生物顕微鏡利用施設設置を目的に、ニコンインステック社の寄付講座として開設された。2012年から電子科学研究所の研究支援部の一部門「ニコンイメージングセンター」として運営されている。
実は、同様な研究者の支援を行っている「ニコンイメージングセンター」は世界に8か所だけ。ハーバード医科大学(ボストン)、 ハイデルベルグ大学(ドイツ)、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(サンフランシスコ)、シンガポールバイオポリス(シンガポール)、キュリー研究所(パリ)、ノースウエスタン大学(シカゴ)、キングスカレッジ(ロンドン)、そして北海道大学である。むろん日本国内では1か所だけである。

センターには、高速レーザー共焦点顕微鏡、全反射蛍光顕微鏡(TIRF)、多色蛍光タイムラプス顕微鏡、リアルタイム共焦点顕微鏡と4つの顕微鏡システムがあり、それぞれが顕微鏡本体にCCDカメラや画像処理システム、スキャナ、炭酸ガス培養装置などが組み上げられている。

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(左)Hela細胞(ヒト子宮頸がん細胞)の 共焦点蛍光画像 (右)マウス海馬の神経細胞

「高速レーザー共焦点顕微鏡」は、蛍光や分光の特性を空間情報と同時に、超高速で取得でき、さらに光で刺激を与えながら蛍光イメージングを同時に行うことができる。構成成分の分布や細胞などの内部構造の観察などに使われる。

「全反射蛍光顕微鏡」は、細胞とカバーガラスのごく近傍で起こる1分子の観察や、分子が単独で発光するような化学発光の観察などに用いられ、応用の幅は広く多目的に使われる。

「多色蛍光タイムラプス顕微鏡」。「タイムラプス映像」とは、一定の間隔を開けて撮影した静止画を連続して動画のように処理した映像を指し、蛍光波長の違いを検出しながら焦点が狂うことなく数日間に及ぶ長時間観察が可能な顕微鏡である。

このほか、各種の対物レンズや光学フィルター、試薬のサンプル提供、画像取得・解析ソフトウェアなども充実している。

共焦点顕微鏡は画像が鮮明で分解能が高く、サンプルの断面像が得られるなどの優れた特徴を持ち、急速に普及してきた。1台だけなら道外の大学にも高性能の顕微鏡システムはあるが、これだけの規模で揃っている所はない、という。

バックグランドが違うからシームレスな研究ができる

センター長は電子科学研究所の光細胞生理研究部門の 根本知己 教授。専門は細胞生理学、生物物理学であるが、光やレーザーを使ったバイオイメージング技術の開発を行う一方、神経科学、分泌を中心とする細胞生理学の分野で新しいバイオロジーの探求に取り組むというふたつの仕事を行っている。

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(左)センター長の根本先生 (右)イメージング画像を前に

バイオロジーでは神経科学、分泌をキーワードに、世界最深部の生体脳中のニューロンのライブイメージング、細胞における分泌の破綻と疾病の関係(糖尿病や骨粗鬆症)、血中の糖輸送タンパクの動態などの研究に取り組んでいる。

技術開発では、非常に短い時間に強い光を出すことができる「超短光パルスレーザー発振装置」を用いたイメージング法の開発に取り組んでいる。

超短光パルスレーザーは瞬間的に非常に光子密度の高い領域を作ることができ、これを使って励起現象を起こして観察する「2光子顕微鏡システム」を使用して研究を行っている。レーザー光のパルスの長さはフェムト秒(なんと10-15、1000兆分の1秒!)。光の透過性が高く深部イメージングを可能とすることから、生きたままの動物の断層蛍光イメージングが可能となってきた。

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研究中の2光子顕微鏡システム

根本研究室では、世界でも最も深部のレベルまで観察できるようになったという。

また、通常は蛍光タンパクなどを使って光らせてから観察するが、非線形光学効果を用いて無染色で生体や細胞を観察する研究も行っている。色素を使わずに観察できることから医療分野などでの応用が期待されている領域である。

根本先生は博士(理学)、ナノテク連携推進室を兼任する 松尾保孝 准教授は博士(工学)、センター専任の 大友康平 特任助教は博士(薬学)、機器利用の面倒をみてくれる 小林健太郎 技術支援員は博士(理学)とバックグラウンドはバラバラであるが、根本先生は言う「得意分野や専門が違うからこそ、シームレスな研究ができる」。

動物を生きたまま観察するin-vivoイメージングの研究など、画像データの解析を行う研究では数理形態学、すなわち数学の研究者との共同研究も行ったそうだ。

まさに技術の進歩がサイエンスの発展を促し、サイエンスの進歩が新しい技術ニーズを生む…という状況を異分野の研究者が集まって実践しているといえるだろう。

バイオに限らず相談にのります!

「ニコンイメージングセンター」では、4人の先生が顕微鏡の利用だけではなく、観察のアドバイスや実験の方法論など幅広くサポートを行っており、バイオ分野に拘らずに相談してほしいという。食品系、農学系の研究者や企業のニーズも知りたいとも考えているそうだ。大友先生は植物細胞の外部環境による細胞内の変化を観察し、分裂の制御に関わるヒントを探求するという研究を行っているそうである。

日本に1か所しかない「ニコンイメージングセンター」と、4人の顕微鏡スペシャリスト達。興味を持たれた方は、一度相談してみては如何だろうか。

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 左から松尾先生、根本先生、大友先生、小林先生 

お忙しい中、スタッフ全員にお付き合いをいただきました。根本先生を中心にチームワークの良さを感じさせるインタビューでした。ありがとうございました。