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北のDreamMaker VOL.1 創業6年目からの幕開け、札幌創薬物語。/ 株式会社エヌビィー健康研究所 代表取締役 高山 喜好さん

Human 2013年9月4日

北大R&BPの歩みを紹介する「北大R&BP体験記」。

第一回は注目の創薬ベンチャー、株式会社エヌビィー健康研究所 代表取締役高山喜好さんにご登場いただきました。

平成25年3月に埼玉から北大ビジネス・スプリングに入居してきたエヌビィー健康研究所は、札幌出身の高山喜好社長が率いる創薬ベンチャー。北大北キャンパスの地の利を生かして北海道発の新薬創出に挑む。

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「持ち出し厳禁」の慣習でゼロスタート

起業時の思い出を「ゼロスタートだった」と振り返る経営者は多いが、高山喜好さんの場合は正真正銘のゼロスタート。東京の大手製薬会社の研究員として13年間勤務、そのまま安定した会社員人生を送れるはずの職場を辞め、「自分の力でやってみたい」と起業を思い立ったのは平成18年のことだった。

ところが、創薬業界の転職は基本「持ち出し厳禁」。どんなに優れた研究実績を積んでいたとしても退職後の数年間はそれらに関するキャリアは眠らせたまま。つまりは「これから何をしよう?」という根源的な問いかけこそが、エヌビィー健康研究所のスタートラインであり、悩みどころでもあったようだ。

ブラックボックスに見出すビジネスチャンス

この「人生で一番時間をもてあました」時期に、高山さんはひらめいた。それは特定の研究内容には踏み込まず、業界全般の“かゆいところに手が届く”コンサルティングサービスを始めること。例えば、新薬開発の初期段階に使われる機器メーカーの新規参入が難しいのは、企業側の窓口や交渉の仕組みが“ブラックボックス”であることが原因と言われている。そこで高山さんは中間管理職だった経験から研究現場と会社組織、双方の心情がわかる説得術でメーカーと製薬会社の仲介役になり、難解な専門用語の“通訳”もかって出た。日本の業界事情を知りたがっていたアメリカの大手機器メーカーとも成約し、確かな手ごたえを実感した。

このブラックボックスを市場にした独創性と、「どんなに忙しくても外部の営業さんが来たら時間を作って会っていた」会社員時代の人脈。高山さんの起業元年を後押ししたものにもうひとつ、「情報をお金に換える」という発想がある。 「ネット時代だからといって価値のある情報はタダではない、というのが私の持論です。それなりの投資とフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションによって得られる情報を手にした人は、手探りで始めたときに陥りやすい失敗を避けられる」。価値ある情報をお客様に提供する。コンサルの根本を見据えた行動力でゼロスタートの大きな一歩を踏み出すことになった。

研究設備を整えて新しいバリューを生む

起業の翌年、埼玉のインキュベーション施設に入居が決まった。広さ30坪のがらんどうの部屋を見ているうちに、「ここで研究してみたい」という意欲がわき、新薬開発の初期段階にまつわる分析や試験などの研究業務受託を始める。このとき、通常は巨額な資金を必要とする設備投資にも前述の人脈が生かされた。

「皆さんによくしていただいたおかげで最先端のデモ機や遊休機材・機器の情報が次々と集まり、設備投資の予算も時間も大幅に短縮。転機がある度に支えになってくれた方々は、私のかけがえのない財産のひとつです」。

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こうしてあっという間に“機器長者”になった高山さんは前職時代に働きを認めていたスタッフに声をかけ、初めての増員を実現。「多彩な機器が揃ったことで私は営業兼コンサルの外回り、増員したスタッフは中で研究に集中するといった新しいバリューを持つことができました」。

北大生と肩を並べて勉強できる環境に

埼玉の入居期限もあり、創業6年目、高山さんの目は今も実家がある北海道に向けられた。北大以外にも候補地はいくつかあったが、やはり第一志望は出身地である道都・札幌。入居と同時に北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター統括の喜田宏北大名誉教授らとインフルエンザの重症化予防薬探索の共同研究も始まることになり、平成24年3月から5人の社員とともに北キャンの一角、北大ビジネス・スプリングに移ってきた。

入居2年目のいま、北キャンの魅力をこう語る。「北キャンは環境も専門機器の充実度も言うことなし。私どもの仕事に必要な動物実験施設が整えられている点も理想的でした。それからもうひとつ、私が移転に期待していたのは“社員が勉強できる環境”であること。北大生と同じような感覚でセミナーを聞いたりオープン授業に参加したりして、次代の研究につながる種を見つけてほしい。私自身もたまに大学内の循環バスに乗り、偶然顔を合わせた先生たちと情報交換をしています。このフェイス・トゥ・フェイスの機会を持てることも極めて重要。クリエイティブな仕事をするうえで欠かせない要素です」。

販売の出口をもって企業は発展する

「まだまだ道半ば」というエヌビィー健康研究所。今後の展望をうかがった。「起業後すぐに始めた“製薬企業様に創薬の初期段階の成果を技術移転する”というビジネスモデルはあと数年で一段落すると考えています。問題はその先。これは壮大な目標ですが、10年先には北海道初の新薬開発企業となり、そのときには販売も当社で扱いたい。製造の中間部分は外に出しても最終的な出口となる販売をもって初めて企業は発展すると考えています」。

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最後に、会社のミッションを訊ねると3つ回答してくれた。「まずは自社による新薬の開発と、企業である以上は会社の継続・発展。そして最後は北海道で働く場を生み出すこと。この社会と社員、地域への3つの貢献がミッションです。頑張って早く収益を上げなければならないってことですね(笑)」。

札幌移転後の平成24年にポスドクを、平成25年には北大修士の新卒者を採用した。有言実行、アイデアと行動力の同社から今後も目が離せない。

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「可能性を捨てない」

新しいことを考えたときは常に可能性を捨てない。できる方法を考える。へんに考えすぎると「できない」「やるな」という結論になりますから。そうではなくて、どうクリアできるかを考えるのが面白いんですよね。

株式会社エヌビィー健康研究所

http://www.nbhl.co.jp/

NBHL

本社/札幌市北区北21条西12丁目2 北大ビジネス・スプリング 110号室

TEL/011-708-7156

代表者/代表取締役 高山 喜好(薬学博士)

従業員数/7名

設立/平成18年7月7日

資本金/5,925万円(平成25年7月現在)

事業内容/

  • 製薬企業、化学メーカー、バイオ企業向けに新薬開発の初期段階に特化した技術移転
  • 呼吸器疾患治療薬・睡眠障害治療薬等のオリジナルシーズ開発