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気になる数字をチェック! 5 『1+2+3=6』

Blog 2014年4月16日

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今回の「気になる数字」は、特定の数ではなく「完全数」という概念のご紹介です。

完全数は、小川洋子さんのベストセラー小説「博士の愛した数式」において大切な役割を与えられていたので、ご存じの方も多いかもしれません。その定義は、“その数自身を除く約数の和が、それ自身と等しくなる自然数”です。

例えば、「6」は「1+2+3=6」であり、最小の完全数です。作品中では、数学者である「博士」は阪神タイガースの(元)エース・江夏豊のファンという設定ですが、それは、彼の背番号「28」が完全数であることが大きく影響していることが示唆されています。(「28」は、自身を除く約数の和「1+2+4+7+14」と等しくなります。)

この完全数を発見したのは、紀元前6世紀に生きた古代ギリシアの哲学者であり数学者であったピタゴラス(ピュタゴラス)と言われています。エーゲ海東部に浮かぶ島、サモスで生まれた彼は、万物の根源は数であると考え、ピタゴラス教団といわれる独自の学派(宗教団体)を組織して研究にいそしみ、多くの定理(有名な「ピタゴラスの定理」もその一つ)を生みだしました。

ピタゴラスは、数そのものに意味を見出そうとし、研究した最初の数学者と言えます。そんな彼が、約数に注目して、自然数を「完全数」と「過剰数」と「不足数」の3つに分けることを考え出したのです。

完全数の定義は上で説明したとおりですが、他の2つはご想像のとおり、過剰数が“その数自身を除く約数の和が、それ自身より大きくなるもの”であり、その反対に不足数が“その数自身を除く約数の和が、それ自身より小さくなるもの”となります。

実は、完全数は探すのが大変で、小さい順に4番目まで(「6」「28」「496」「8128」)は紀元前には知られていたのですが、その後は18世紀になるまで、7番目まで(「33550336」「8589869056」「137438691328」)しか見つかっていなかったそうです。現在もコンピュータによる探索がなされているのですが、奇数の完全数があるのか、あるいは完全数は無数にあるのかといった基本的な問題は未解決となっています。また、“その数自身を除く約数の和が、その数自身より1だけ小さい不足数”は知られています(例えば「4」の場合は「1+2」より1だけ小さい)が、“1だけ大きな過剰数”は見つかっておらず、その上、古代ギリシアから2500年たった現在でもそれが「存在しない」という証明はなされていないというのも不思議な感じがします。さらに、完全数には約数に関わること以外にも、“連続した自然数の和で表すことができる”という不思議な性質があります。例えば、「28」は「1+2+3+4+5+6+7」と表せますし、「496」は「1+2+3+……+31」と表せます。

このような不思議な数「完全数」は、数学者以外にも重要性が認められており、サイモン・シンの著作「フェルマーの最終定理」によれば、4世紀に生まれた聖人アウグスティヌスは「創世記逐語注解」の中で、「6はそれ自身として完全な数である。それは神が万物を六日で創造されたからではなく、むしろその逆が正しい。神が万物を六日で創造されたのは、この6という数が完全だからであって、たとえ六日の業がなかったとしても、6の完全性はゆるがないであろう」と論じているそうです。

最後に、「博士の愛した数式」から主人公である博士の、真理を前にした謙虚さが伺える部分を引用したいと思います。

「数は人間が出現する以前から、いや、この世が出現する前からもう存在していたんだ。」

「数を生み出した者に比べ、我々人間はあまりにも愚鈍だ。」