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北のDreamMaker VOL.3 まちの検査室。「いただきます」を安心して。/ 株式会社クロックワーク北海道 代表取締役 伊志嶺 哉さん

Human 2015年7月14日

北大R&BPの歩みを紹介する「北大R&BP体験記」。

第三回は、株式会社クロックワーク北海道 代表取締役 伊志嶺 哉(いしみね・ちかし)さんにご登場いただきました。

食品工場における衛生管理に関するサービスをトータルで提供する株式会社クロックワークは社長の伊志嶺さんが沖縄で創業。食品産業に強く中小のメーカーが多い北海道に注目し、北キャンパスに新会社を設立。遠路はるばる、沖縄と北海道を行き来している。

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進路を一転、異分野での一からのスタート

「心機一転○○を始めました」
伊志嶺さんの経歴は、まさしくこの言葉で表現できる。
東京で弁護士をめざし司法試験にチャレンジしていた伊志嶺さんであったが、31歳で沖縄に戻り、全くの素人であった、重曹を使いブラスターで吹き付け掃除をする清掃会社を興す。
創業後、しばらくは営業先を探す手探りの毎日。「なかなか仕事をいただけず大変でした」と笑顔で当時の苦労を振り返る。
そんな時、食品工場の除菌システムの製造企業が販売会社を探しているということを知り、また新たな道に進むことに。デモ機器を設置しての営業や効果を調べる検査のため、全国の工場をまわる日々。
現場に入り込み、工場長のもとで衛生管理、食品工場の管理とはどういうものかをひたすら学ぶ日々だったそうだ。
なんと、1年間かけて200社近い工場を訪問したとのこと。
実は、社名「クロックワーク」は、「時計のように(クロック)コツコツと働く(ワーク)」からきている。伊志嶺さんの仕事理念は、まさに「何事もコツコツと」の一言に集約されている。

本当にやりたかったこと、やってあげたかったこと

そんな中、訪れた食品工場でクレームが発生し、スタッフが回収した商品を涙を流しながら廃棄するのを目の当たりにした伊志嶺さんは、「これは自分が何とかしないといけない!」と強烈に思った。
食品を扱っている方々、特に中小企業では、細菌のことを必ずしも良く知っているわけではない。中小食品メーカーの工程を検査して、クレームを未然に防ぐための解決策を提示することが本当にやりたいことであり、自分に与えられた役割ではないか!?
伊志嶺さんの業務に対する思いの根底には、こんな経験がある。

アウトサイダーだからこそ・・・わからないことは聞こう!

元々、根っからの文系だった伊志嶺さん。なんとか原因を探り、食品工場でクレームのリスクを低減させることができないかと頭を悩ますものの、理系の分野では全くのアウトサイダー。しかし、彼はこれを大いに利用した。
異分野に足を踏み入れたことを逆手にとって、専門知識を持っている方々のもとへ積極的に足を運ぶ。
「わからないことは専門家の力を借りるのは当たり前。専門のことを知らないというコンプレックスがないから質問することは恥ずかしくありません。」
伊志嶺さんは、知らないという弱みを聞きやすいことで見事に強みに変えてしまった。
ピンチをチャンスに変えるとはまさにこういうことである。

持ちうる知識を生かし法律を守る

伊志嶺さんは、持ち前の法律知識もフル活用している。
登記の手続きは、司法書士など専門家に依頼するのが一般的だが、伊志嶺さんは慣れ親しんだ法律の知識を活用し自分の手で行った。
「会社を興すということは本当に心細い。一人ぼっちの作業です。自分がこの会社を守っていかなければならない。誰も教えてくれないという自覚を持ち、恥をかいてでも創っていくことが大事。」と学んだのも、この時であった。
また、食品工場における衛生管理の世界は法律と強く関与している。食中毒がおきた場合を想像してみるとわかるように、営業停止などの行政処分などはすべて法令に基づき行われるのである。
伊志嶺さんは、慣れ親しんだ法律を読み込むことを苦にしない。「自分が勉強してきたことを、この食品衛生という業界で生きていくための持ちうる武器として利用したい。自分の持てる力を商品とともに提供していくことこそが『サービス』です。」

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初めての危機を乗り越え、北大北キャンパスとの出会い

沖縄で創業し、今年で10年目。そんな伊志嶺さんにも、創業後4年目に危機が訪れる。
当時、除菌システムの薬剤として輸入し使用していた‘グレープフルーツ種子抽出物’(自然添加物より抽出)に化学合成物質除菌剤が含まれていることが、食品添加物の自主基準を設けている大手取引先に指摘され、取引が禁止となる可能性がでてきたのである。
ここでも、伊志嶺さんはピンチをチャンスに変えた。基礎実験を進めていた‘からし抽出物’の利用を検討。福岡のメーカーの協力を得て、琉球大学との共同研究により、データ取り、現場での試験と1年弱の期間を経て、使用禁止発表の2か月程前には、さらにパワーアップした商品を開発・製品化したのであった。
また、別の転機もあった。
その頃、伊志嶺さんの取引先は、北海道にも50社ほどあったが、さらに手を広げようと、道内大手乳業工場との意見交換をする中、たまたま紹介していただいた中小企業基盤整備機構北海道本部(以下、中小機構北海道本部)の関係者を通じ、北海道大学農学研究院応用菌学講座 浅野行蔵教授と知り合う機会を得た。
浅野先生からの「北海道は、沖縄と同様に中小零細メーカーが多く、困っているところも多数ある。ぜひ北海道でも商売をしてみてはどうか。そうすれば共同研究も可能になる。」というアドバイスもあり、北海道で新たな一歩を踏み出すことを決断する。
伊志嶺さんは、北海道で新会社を設立し、北大北キャンパス内にある「北大ビジネス・スプリング」(以下、北大BS)に入居した。北大BSの大きな魅力は、インキュベーション・マネージャーが常駐し、支援制度など様々な相談ごとに親身になって対応しているところである。
また、北大BSのある北大北キャンパス周辺には、北海道立総合研究機構(以下、道総研)もあり、様々な研究者との人脈を築けるのも大きな魅力。
何よりも北大構内に位置していることや、国(中小機構北海道本部)が所有し、研究者とベンチャー企業がつながる場であるということも信用性につながっている。
これもまた大きな力となり伊志嶺さんを後押しした。

企業に寄り添い、ともに成長してゆく

北大北キャンパスで育んできた北海道の取引企業とは、「食品の表示に関する指摘などクレームがあった時は、必ず伊志嶺さんのところへ連絡する。」そんな信頼関係を築いてきた。
北海道には、中小の食品メーカーが多い。道内でしか手に入らない中小メーカーの商品を、全国どこでも手に入るように育てていくには、大手流通企業のバイヤーも認めてくれる品質管理基準をクリアするという大きな壁がある。そこを一緒に乗り越えることができないか?と、伊志嶺さんは考えた。
「売れ始めてからの品質管理ではなく、売るための品質管理をともに考える。それが私たちの本来の仕事です。」

リスクを事前に回避できるシステムを

昨今、コンピューターの性能アップに伴い、微生物の分析等いろいろなことが高精度でわかるようになってきている。高いレベルの技術を安価で提供できるようになったことを生かし、現場での衛生管理に生かせる仕組みにつなげていきたいと伊志嶺さんは考える。
例えば、食品工場で起きた品質問題等を遺伝子レベルで分析し、事例に応じた対応をデータベース化する仕組みを作れないだろうか?
そして、消費者が安心して「いただきます」が言えるように、クレームが発生する可能性を事前に察知した際には、製造現場で問題が発生したかどうかを考えるところから始め、市場流通を未然に防ぐ可能性を探っていく。
こういうことができればと、伊志嶺さんは長年かけて育んできた信頼をベースに構想している。

「艱難辛苦汝を玉にす」

これは、伊志嶺さんの座右の銘である。
苦労をどんどんして、それを乗り越えることによってこそ、自分もブラッシュアップされていく。常に学ぶ姿勢を忘れず、惜しみなく時間をかけてコツコツと。伊志嶺さんの基盤にはこの精神がある。
また、かつて食中毒事故をおこした道内企業の元社員の方を顧問として招いている。社員教育をきちんとしていても、たった一人が気を抜いただけで大事故を招く。現場で様々な経験した方の言葉は貴重だ。伊志嶺さんは、こういった方々にいろいろと教えを乞いながら日々邁進している。
起業の大変さも勉強になったが、営業力やフットワークの軽さ、そして何よりも常に低姿勢で真摯なお人柄が招く人とのつながりなど、伊志嶺さん自身の素晴らしいご経験から学ぶことが多かった今回のインタビューであった。

株式会社クロックワーク北海道

クロックワーク提供本社/札幌市北区北21条西12丁目2 北大ビジネス・スプリング109号室
TEL/011-708-8035
代表者/代表取締役 伊志嶺 哉
従業員数/3名
設立/平成24年10月
事業内容/

  • 食品微生物検査
  • 栄養成分分析
  • 食品工場除菌システム(ステリミストシステムTM)
  • 食品表示調査、作成補助
  • 衛生管理総合
  • 製薬企業、化学メーカー、バイオ企業向けに新薬開発の初期段階に特化した技術移転
  • 呼吸器疾患治療薬・睡眠障害治療薬等のオリジナルシーズ開発