北キャンレポート

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注目!若手Scientist 第2回 北海道大学大学院歯学研究科血管生物学教室 特任准教授 樋田 京子 氏

『注目! 若手Scientist』。第2回は「北大若手研究者の会」の設立メンバーでもある樋田 京子 歯学博士。

樋田先生は札幌のご出身で、北大歯学部を卒業した後、口腔外科で臨床医として勤務していた。外科医であるご主人のアメリカ留学に同行し、同じラボで研究を行うことに。しかし、1歳の双子のお子さんを連れての渡米…。慣れない土地、子育てとラボでの研究生活。さぞや、ご苦労も…。

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さて、先生の研究のターゲットは「がん」だ。がん細胞は血管を作らせる物質「VEGF(血管内皮細胞増殖因子)」を出して血管を呼び寄せ、自らが必要な栄養や酸素を得ている。この物質を阻害して血管の新生を邪魔しようという戦略を持った研究が世界的にも色々と進められてきた。

すでに治療の現場で使われ、効果をあげている薬もあるが、正常な血管細胞にも影響があるため、どうしても副作用が出てきてしまうという。

口腔外科の腫瘍の手術では、顎や舌の切除もある。再建手術もされているが患者さんの外見が大きく変わったり、発音に大きな影響が残ってしまうことや、せっかく腫瘍を切除した後の機能回復に取り組んでいても、時に再発があったりと、臨床医の頃、患者さんのQOL(クオリティオブライフ;生活の質)に心を痛めていた。アメリカの研究生活で出会ったのは、血管の研究を通してがん細胞に共通するような診断の指標(マーカー)や弱点を見つけようというもの。これが研究者としてやっていく転機となった。

先生の研究は、血管内皮細胞を分離して正常細胞との違いを明らかにしようとするところが出発点。腫瘍組織にわずか1~2%の血管から細胞を分離して培養し、実験用のサンプルを作る。顕微鏡を見ながら1個1個の細胞に向き合い、正常な細胞とがん細胞の違いを探していった。腫瘍組織の血管に染色体異常があることを発見し、発表したのは2004年。当時は血管からのアプローチは少なく、なかなか受け入れられなかったそうだ。

がん細胞は非常に多様性が高く、診断に使われている指標、つまり腫瘍マーカーも非常に多い。上皮系の腫瘍マーカーはあるが、非上皮系組織や血管などの肉腫系の腫瘍マーカーはないのが現状という。また、血管新生を反映するマーカーもないのだそうだ。今の目標としては、血管新生阻害剤はむろんのこと、ある種の抗がん剤が効くかどうかを見極めるコンパニオン診断薬などをお考えのようだ。血管内皮細胞には多くのがんに共通するマーカーがありそうだという。

現在は、マウスとヒトに共通するマーカーの探索やがんの低酸素の状態に焦点を当てているそうだ。ヒトの血管内皮細胞を用いて開発した実験系は、セルベーストアッセイとしてヨーロッパの展示会でもプレゼンテーションを行ってきた。

ヒト血管

ヒトの血管の顕微鏡写真(左は正常な血管、右は腫瘍の血管)

(出典:McDonald et al,Nat Med 2003)

北大は大学病院もすぐ近くにあり、臨床の現場との近接性に強みを持っているそうだ。先生は「大学の研究者はふたつやらなきゃ…」という。実用化研究と教科書に書いていない新しい真理をみつける基礎研究だ。実用化面では、既にがん血管内皮細胞だけが持つ特異的なマーカーも見つけており、新しい創薬のターゲットとして期待されている。基礎研究については「パラダイムシフトを起こすような新しいストーリーを生み出したい」という。

遠からず「血管から見た新しい生物像」を形作るとともに、個別化治療、次世代の治療の道を拓いていくことにつながっていきそうだ。

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非常にお忙しそうな中、時間を割いていただいたインタビューでした。現在も薬学部の先生と共同研究をされているそうで、臨床医を始めとする「学-学連携」や実用化に向けた民間との連携を今後も積極的に進めていきたいそうです。

 

 

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